亜鉛欠乏症の臨床的影響は 臨床検査値に異常がなくても存在しえる
妊婦、特にぎりぎりの亜鉛状態で妊娠期間が開始した場合、胎児の亜鉛必要量が多いことからも、亜鉛不足になるリスクが高くなる[37]。授乳も、母体の亜鉛貯蔵を枯渇させる可能性がある[38]。これらの理由により、妊婦や授乳婦では亜鉛のRDA値がその他の女性よりも高くなる(表1を参照)[2]。
下痢が持続している小児では、亜鉛を補給することによって、下痢の平均期間が約16時間短縮することはほぼ確実である(中程度の確実性)が、嘔吐のリスクもおそらく増加する(確実性が中程度のエビデンス)。
先述のとおり、亜鉛の鼻腔内投与安全性は、亜鉛を含む鼻腔用ジェルまたはスプレーの使用による、一部で長期または永久的な無嗅覚(嗅覚の消失)の報告多数のため、疑問視されている[14-15]。
大規模な横断的調査の結果から、鎌状赤血球症小児患者の44%は、おそらく栄養所要量の増加および/または低栄養状態が原因で[41]、血漿中亜鉛濃度が低いことが示唆されている[40]。鎌状赤血球症患者成人の約60~70%にも亜鉛欠乏症がみられる[42]。亜鉛補充は、鎌状赤血球症小児患者の成長を向上させることが示されている[41]。
私たちの社名にも用いられている「亜鉛」。数ある非鉄金属の中からこの二文字を選んで社名に入れたのは、その可能性の広さがあったからにほかなりません。亜鉛そのものは自動車、家電製品、構造物、建築材料の表面処理や部品などとして幅広い用途に用いられています。
その他の2つの小規模臨床試験では、ドル-ゼンまたは加齢黄斑変性の被験者に2年間硫酸亜鉛200 mgを補充(亜鉛45 mgを提供)することによる効果を評価した。亜鉛補充は、1つの試験では視力障害を有意に軽減したが[74]、もう1つの試験では効果がなかった[75]。
また、サプリメントの不適切な利用などによる、亜鉛の過剰摂取により、銅の吸収阻害による銅欠乏、吐き気、嘔吐腎障害、免疫障害、上腹部痛、消化管過敏症、HDLコレステロールの低下、低銅血症、下痢などのおそれがあります5)。
亜鉛は成人の体内に約2g含まれます。成人ではそのほとんどは筋肉と骨中に含まれますが、皮膚、肝臓、膵臓、前立腺などの多くの臓器に存在し、さまざまな酵素の構成要素となっています。
低所得から中所得の国々では、毎年何百万という子どもたちが重度の下痢に苦しみ、多くが脱水によって死亡している。口から(経口補水液 (oral rehydration solution:ORS)を用いて)水分を補給すれば子どもたちの命を救うことができることは明らかとなっているが、子どもが下痢に苦しむ期間を短縮する効果はない。亜鉛補給は、下痢の期間を短縮させ、重症度を抑えるのに役立つ可能性がある。このため、小児の死亡率を低下させるうえでORSに対して付加的な利益が得られるかもしれない。
亜鉛および抗酸化剤のいずれも、おそらく網膜の細胞傷害を抑止することにより、加齢黄斑変性(AMD)および視力障害の進行を遅らせることが示唆されている[69,70]。オランダの集団ベースのコホート研究では、ベータカロチン、ビタミンC、ビタミンEと同様、亜鉛の食事摂取量の多いことが高齢被験者におけるAMDリスクの軽減と関係していた[71]。しかし、2007年に出版された系統的レビューおよびメタアナリシスの著者達は、進行AMDへの進行リスクを軽減するものの、亜鉛は早期AMDの一次予防に効果的でないと結論づけた。
亜鉛は、さまざまなタンパク質や核酸[31]の構成要素として体全体に分布するため、臨床検査[2,29,30]で適切に亜鉛の栄養状態を測るのは困難である。血漿中または血清中亜鉛濃度は、亜鉛欠乏症の評価に最も一般的に使用される指標である。ただし、これらの値は、厳しいホメオスタシス制御メカニズム[8]により、必ずしも細胞内亜鉛状態を反映するとは限らない。亜鉛欠乏症の臨床的影響は、臨床検査値に異常がなくても存在しえる。臨床医は、亜鉛補充の必要性を判断する際に、リスク要因(不適切なカロリー摂取、アルコール依存症、消化器疾患など)および亜鉛欠乏症の症状(乳幼児・乳児の成長障害など)を考慮する。
消化器手術や消化器疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、短腸症候群など)は、亜鉛の吸収を抑制し、おもに消化管からであるが、それほどでないが腎臓からの内因性の亜鉛の喪失を増加させる。 [2,24,33,34]。亜鉛欠乏症と関係するその他疾患には、吸収不良症候群、慢性肝疾患、慢性腎疾患、鎌状赤血球症、糖尿病、悪性腫瘍などの慢性疾患がある[35]。慢性下痢も、過度の亜鉛の喪失を引き起こす[22]。
米国科学アカデミー医学研究所の食品栄養委員会は、亜鉛の上限摂取量(UL)を定めている(表3)。UL値を越える長期摂取は、健康に悪影響を与えるリスクを増加させる[2]。UL値は、薬物治療で亜鉛を摂取する患者には適用されない。ただし、これらの患者は、健康上の悪影響について医師の管理下に置かれる。
亜鉛が不足すると、たんぱく質やDNAの合成がうまく行えなくなり、成長障害が起こります。また、亜鉛は味を感じる味蕾細胞の産生に必須であるため、亜鉛不足になると味を感じにくくなる味覚障害になる可能性があります。そのほかに、貧血、食欲不振、皮膚炎、生殖機能の低下、慢性下痢、脱毛、免疫力低下、低アルブミン血症、神経感覚障害、認知機能障害などのさまざまな症状が現れます。
亜鉛は数百におよぶ酵素たんぱく質の構成要素として、さまざまな生体内の反応に関与しています。アミノ酸からのたんぱく質の再合成、DNAの合成にも必要なので、胎児や乳児の発育や生命維持に非常に重要な役割を果たしているほか、骨の成長や肝臓、腎臓、インスリンを作るすい臓、精子を作っている睾丸など、新しい細胞が作られる組織や器官では必須のミネラルです。また、体の細胞にダメージを与える活性酸素を除去する酵素の構成成分であるほか、味覚を感じる味蕾細胞や免疫反応にも関与しています。